冬虫夏草(トウチュウカソウ)は,冬のあいだ虫の姿でいたものが,夏になると草(=きのこ)に生まれ変わる不思議な生物として,中国で付けられた名前です。日本でも一般的に使われている名前ですが,もちろんそんな生物はありえません。その正体は,生きている昆虫やクモなどに寄生してこれを殺し,その死骸からきのこを発生させる菌類です。
北海道や東北地方などには,広大なブナの森がありますが,そこでは,十年前後の周期でブナアオシャチホコという蛾の毛虫が大発生します。この毛虫による葉の食害は凄まじく,数千haにもおよぶブナ林が,丸坊主にされるほどです。このような被害が何年も続けば,ブナは次々と新しい葉を作り続けなければならず,やがて力尽きてしまいます。ところが,ブナアオシャチホコの大発生は,殺虫剤もまかないのに決まって1~3年の内には終息します。
そして,毛虫の姿が消えたブナ林の地面から,5~7センチメートルのこん棒のような形をしたダイダイ色のきのこがいっせいに生えてきます。注意深く掘ってみると,そのきのこは,土の中のブナアオシャチホコの蛹から生えていることがわかります。このきのこは,サナギタケという冬虫夏草の仲間です。ブナアオシャチホコが大発生したときには,その寄生率は90%を越えることもあるそうです。
普段は見つけるのもたいへんなほど森の中でひっそりと暮らしているサナギタケは,十年に一度のお勤めをきちんと果たし,ブナ林の生態系のバランスを保っているのです。
![冬虫夏草](/nourinsuisan/ringyose/seikkinoko/koza/images/totyukaso.jpg)
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