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更新日:2019年3月8日

マツタケの栽培化に向けた取り組み

 

平成20年11月作成
平成23年12月改訂

きのこ特産部

1.はじめに

マツタケは栽培技術が確立されていない上、マツ林の環境悪化から、その生産量が年々減少しており(きのこ雑学講座「マツタケ」参照)、非常に高値で取引されるようになりました。このため、その人工栽培技術の確立は中山間地域における収入源の確保、およびマツ林の整備促進に大いに貢献すると考えられます。現在、茨城県林業技術センターでは、マツタケ菌を感染させたアカマツ苗(菌根苗)を作出し、これをアカマツ林内に植え付けることでマツタケの発生する林を造成する技術の開発を目指し、研究に取り組んでいます。ここでは、これまでの研究成果の概要について紹介します。

2.アカマツ林環境整備の効果の実証

マツタケの発生が減少した原因はアカマツ林に雑木が繁茂し、林内が暗くなって、地表に落ち葉が厚く堆積するようになったためです(きのこ雑学講座「マツタケ」参照)。このため、アカマツ林をマツタケの発生に適した環境に整備してやれば、マツタケが発生するのではないかと考え、環境整備試験を行いました。その内容は、(1)アカマツ林の間伐、(2)落ち葉のかき取り、(3)広葉樹の伐採・整理、(4)萌芽枝の伐採・整理です。その結果、環境整備を行ってから4年目以降に、マツタケの発生本数は大きく上昇し、環境整備の効果が実証されました(前田ら1999;図-1、2)。

マツタケグラフ

図-1.平成4年に環境整備を行った試験地における平成16年度までのマツタケ発生本数の推移

マツタケ発生の写真

図-2.環境整備を行った試験地に発生したマツタケ

3.マツタケの菌根共生の解明

マツタケの菌根形態には諸説あり、マツタケ菌はマツに寄生的に働くのでマツタケ菌を感染させるとアカマツの苗木は衰弱するという報告もありました。その後、マツタケ菌はアカマツの根に外生菌根を形成することが、野外に存在する菌根の形態観察と合成実験から明らかになり(図-3、4;Yamadaet.al.1999a、b)、合成実験の結果では、マツタケ菌が単独で感染しても、苗が衰弱しないため(Yamadaet.al.1999b)、菌根苗を作出し、山出しする技術の開発につながっています。

マツタケの外生菌根の実体顕微鏡写真

図-3.マツタケの外生菌根の実体顕微鏡写真

マツタケの外生菌根の光学顕微鏡写真

図-4.マツタケの外生菌根の光学顕微鏡写真

4.専用容器の開発とシロ様構造を有する菌根苗の作出

アカマツの根に共生させたマツタケ菌を野外に長く定着させるためには、密閉容器内で多量の菌根を有する菌根苗を作出し、菌根を損傷させることなく、野外に出すことが必要と考えました。しかし、この菌根苗作出条件に合った容器は市販されていないため、専用の容器を開発しました。この容器を用いて、土壌の種類と配合、水分量、接種条件を検討することで、マツタケの菌根が多量に形成されると共に、野外のマツタケ発生地で見られるシロ(菌糸がまん延することで形成される白色を帯びた土壌塊)に類似した構造を有するアカマツ苗を作出することに成功しました(図-5~7;小林ら2007)。

専用容器を用いて作出したマツタケの菌根苗


専用容器側面に観察されたシロ様構造



シロ様構造より取り出したマツタケの菌根

図-5.専用容器を用いて作出したマツタケの菌根苗

図-6.専用容器側面に観察されたシロ様構造 

図-7.シロ様構造より取り出したマツタケの菌根


5.野外に植え付けた菌根苗における菌の生残の確認

この容器で作出した菌根苗をアカマツ林地に植え付け、1年経過した苗を掘り出し、根系の中央部分に見つかった白色の菌根の塊(図-8、9)から表面殺菌法により菌の分離を試みた結果、白色菌糸の分離に成功しました(図-10)。この菌糸のDNAを菌根苗作出時に接種源として利用したマツタケ保存菌株のDNAと比較したところ、菌根から分離された菌糸はマツタケであることが示されました(図-11;小林ら2008)。

掘り出した菌根苗

白色菌根塊の拡大写真

白色菌根塊より分離された菌糸

分離菌糸とマツタケ培養菌糸のPCR-RFLP分析結果

図-8.掘り出した菌根苗
矢印は白色の菌根塊を示す。

図-9.白色菌根塊の拡大写真

図-10.白色菌根塊より分離された菌糸

図-11.分離菌糸とマツタケ培養菌糸
のPCR-RFLP分析結果
HinfⅠとHaeⅢは分析に用いた制限酵素
を示す。それぞれ、左がマツタケ培養菌糸
で右が分離菌糸の分析結果を示す。

6.菌根苗作出容器の改良

マツタケ菌根苗の作出には成功したのですが、一部の苗には生育不良が認められるため、マツタケの栽培研究を進めるには十分な菌根苗を供給できません。この現状を打破するためには、作出技術の更なる改良が必要です。これまでに、様々な形状の容器を検討した結果、上方容器の横穴の数を増やすことで、植物が健全に育つだけでなく、マツタケ菌がより大きなシロ様構造を作ることを明らかにしました(図-12)。

横穴を8つに増やした改良容器を用いて作出した菌根苗
図-12.横穴を8つに増やした改良容器を用いて作出した菌根苗
波線○印はシロ様構造を示す。

7.おわりに

これまでの試験研究の結果、アカマツの根にマツタケ菌の菌根を形成させ、林地に植え付け後1年間生残させることに成功しました。今後は、菌の定着に適した条件や菌糸を外に伸ばすための条件を探索するために、更なる調査を進めたいと考えています。

8.引用文献(ABC順)

小林久泰、寺崎正孝、山田明義(2008)野外に植え付けて1年経過した菌根苗根系におけるマツタケ菌糸の生存.関東森林研究59:325-326.
小林久泰、綿引健夫、倉持眞寿美、小野瀬究明、山田明義(2007)大型培養容器によるマツタケのシロ様構造を有するマツ菌根苗の生産.日本きのこ学会誌15:151-155.
前田顕、津田裕司、山田明義、金川聡、寺崎正孝、村松晋(1999)マツタケ子実体の発生増加を目的としたアカマツ林の環境整備.50回日林関東支論163-164.
Yamada、 A. Kanekawa、 S. and Ohmasa、 M. (1999a) Ectomycorrhiza formation of Tricholoma matsutake on Pinus densiflora. Mycoscience 40: 193-198.
Yamada、 A.、 Maeda、 K. and Ohmasa、 M. (1999b) Ectomycorrhizal formation of Tricholoma matsutake isolates on seedlings of Pinus densiflora in vitro. Mycoscience 40: 455-463.

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