茨城県では,平成3年度から林業分野からのスギ花粉症対策に関する研究に取り組んでいる。まだ,短期間の調査ではあるが,以下のことが明らかになった。
1.調査したスギ精英樹クローンの雄花着花度では,年次間で有意な正の相関を示し,自然着花での雄花の着花量は精英樹ごとに安定していたと考えられる。そのため,多賀14号,那珂5号,久慈6号などは雄花着花量が少なく,久慈18号,多賀4号,久慈20号なとは雄花着花量が多いクローンと判断できた。
2.スギ精英樹実生家系苗の雄花着花量は地苗スギより少ないことが碓認できた。
3.スギ精英樹クローンとその実生家系苗の7~8年間における雄花着花度平均値の間に,有意な正の相関が認められた。しかし,同一年度にその両者で有意な正の相関を示すのは1994年度の大豊作年だけであった。そのため,採種園と精英樹実生家系苗から雄花着花量が少ない品種を選抜するには,安定的に雄花着花量が少なく,大豊作年にも雄花着花量が少ない品種を選抜することが重要と判断できる。
4.スギ雄花着花量の年次変動を調査した結果,おおむね豊作年は連続せず,2~3年の周期で豊凶を繰り返すことが確認された。
5.スギ雄花着花量と気象条件との関係では,前年7~8月の気象観測値と関係が深かった。気象観測値別では,積算日照時間>日最高気温の月平均値>日平均気温の月平均値>積算降水量の順に相関の程度が大きかった。
6.スギ雄花が早く開花するクローンと遅く開花するクロ-ンがあることが3年間の連続調査で認められた。また,スギ花粉の飛散開始日を予測するため,日平均気温の積算値などとの関係を検討したが,資料不足から十分に明確な結論を得られなかった。
7.ジベレリンによる強制着花処理には年次間で有意な正の相関が認められ,ジベレリンに対する各クローンの反応性は安定していると判断できた。しかし,同一年度におけるスギの自然着花と強制着花には有意な相関か認められなかった。雄花着花量の少ないスギを早期に選抜するには,自然の状態で雄花着花量が少なく,かつ強制着花処理を行っても雄花着花量の少ないクロ-ンを選ぶことが重要と判断できた。
8.エルノー(マレイン酸ヒドラジドコリン塩)の300倍希釈液剤を7月上旬~8月上旬に葉面散布処理すると,スギ雄花の抑制に有効であることが確認できた。
9.茨城県で造林されるスギ苗木は,当センターの採種園で種子が採取され,育苗された苗木が大部分を占める。そのため,雄花着花量の少ないスギ苗木を造林するには,1)採種園の精英樹クローンで,自然着花で雄花着花量が少ない精英樹クローンを選ぶ,2)その結実樹実生家系苗の現地における雄花着花量が少ない系統を選ぶ。3)自然着花で雄花着花量が少なく,ジベレリンによる強制着花処理を行っても,雄花着花量の少ない品種を選ぶ,上記3点が重要と考える。
|