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更新日:2020年5月27日
平成14年度に「主要成果」に採用された成果のうち水田作を中心にした10課題の概略について紹介します。
詳細は,担当研究室にお問い合わせください。
01.コシヒカリ良質多収生産のための生育診断指標と穂肥管理法
02.県南地域におけるコシヒカリの全量基肥施肥による不耕起乾田直播の安定栽培
03.水稲ロングマット水耕苗用巻取補助装置の作業性能
04.ロングマット水耕苗移植技術による規模拡大と労働軽減
05.ロングマット水耕苗移植・直播を導入した水田複合経営の収益性
06.水田土壌におけるコシヒカリの基肥窒素診断法
07.有機質肥料および農薬削減によるコシヒカリ栽培
08.ホールクロップサイレージ用イネの収量と窒素吸収量の関係
09.土壌環境基礎調査(定点調査)からみた県内水田土壌の実態と対策
10.輪換畑におけるドレンレイヤー工法による浅層暗渠の排水効果
コシヒカリ良質多収生産のための生育診断指標と穂肥管理法
担当:作物研究室
[背景・ねらい]
本県産のコシヒカリは,千粒重が軽いことが指摘されている。また,白米粗蛋白含量のバラツキもみられ,評価を高めるための改善が急務である。
そこで,玄米重54キログラム/a以上,千粒重21g以上,白米粗蛋白含有率6.9%以下という目標を定め,これらを全てバランスよく達成するための「生育指標値」及び穂肥管理法を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
収量・品質目標を達成できる「生育指標値」の上・下限値は図1(省略)のとおりである。
出穂20日前の「生育指標値」は,草丈68~77センチメートル,茎数430~625本/平方メートル,カラースケールによる葉色3.1~3.8,SPAD502による葉色30.4~34.2である。これに対し,
1.適正範囲以下である場合は,出穂15日前に0.2~0.3キログラム/aの追肥を行う。なお,葉色が適正範囲を下回る場合に草丈が適正範囲を超えていれば穂肥量は控えめとする。
2.適正である場合は,出穂15日前に0.2キログラム/aの穂肥を行う。なお,穂肥の施用が遅れた場合出穂10日前の生育量が「生育指標値」の範囲内であれば,0.1キログラム/aの穂肥を行う。
3.過剰である場合は,穂肥を施用しない。
3年間の適正生育区の平均と標準偏差から,理想的な最終生育量は次の通りとなる。
〈稈長84~91センチメートル,穂数324~434本/平方メートル,籾数26,000~34,100粒/平方メートル〉
試験実施3カ年間において,コシヒカリ定点調査圃場(県内全域)の生育データ(出穂20日前~出穂期)の約74%が本「生育指標値」に適合している。このうち,5月上~中旬移植では約70%,4月移植や5月20日より遅い移植を含めても,約60%が収量・品質目標を全て達成できる。一方,本「生育指標値」に対し生育がはずれている圃場では,達成率約30%である。
[成果の活用面・留意点]
農業研究所(表層腐植質多湿黒ボク土)での5月10日移植,「基肥+穂肥」体系(全面全層施肥)での結果である。
「生育指標値」は次の方法で求めた。全ての収量・品質目標を達成した区について,各生育ステージにおける草丈,茎数,葉色,SPAD値の平均・分散を求め,母集団に70%の確率で含まれる範囲の上限値と下限値をプロットして3年間のデータから近似曲線を作成しこれを「生育指標値」とした。
基肥窒素施用量を適正とする。また,有効茎確保後は中干し等により茎数を制御する。
出穂20日前における幼穂長は5~20ミリメートルと考えられる。
県南地域におけるコシヒカリの全量基肥施肥による不耕起乾田直播の安定栽培
担当:水田利用研究室
[背景・ねらい]
大規模水稲生産における作業の競合回避ならびに作期分散,コスト低減,大区画圃場にも対応できる不耕起乾田直播栽培の全量基肥施肥法を確立し,大規模農家に導入を図る。
[成果の内容・特徴]
県南地域における不耕起乾田直播の4月上旬から中旬播種の苗立ち率は90%以上と高く,平成12年が播種量0.6キログラム/aで213~255本/平方メートル,13~14年では0.5キログラム/aで145~171本/平方メートルの範囲で得られる。
最高分げつ期の茎数は苗立ち数が多く確保された平成12年が663~781本/平方メートル,13~14年では533~667本/平方メートルの範囲で推移し,有効茎歩合が高い。
玄米収量はLP70+LPSS100+LPS120区がLP70+LPS120区より,窒素施肥量では20%減肥が標肥より増収する。LP70+LPSS100+LPS120の20%減肥は苗立ち数が166~258本/平方メートルの範囲では倒伏程度が小さく収穫作業上問題ない。LP70+LPSS100+LPS120の20%減肥は整粒歩合が高く,白米の粗蛋白質含量も低い。
[成果の活用面・留意点]
泥炭土における4月上旬~中旬播種,播種量0.5~0.6キログラム/a,苗立ち数が145~255本/平方メートルの範囲で試験を行った結果である。播種深度は20ミリメートルを目標に播種する。レーザープラウによる均平作業を行った圃場では倒伏を回避するため中干しを必ず行い田面をかためる。
水稲ロングマット水耕苗用巻取補助装置の作業性能
担当:経営技術研究室
[背景・ねらい]
米の価格低迷が続く中で,所得を維持確保するためには生産性の向上と高品質生産を図る必要がある。このため,大区画圃場への対応と大規模稲作経営の省力化及びコスト低減に資するためロングマット水耕苗移植による栽培技術体系を確立する必要がある。そこで,ロングマット水耕苗の巻取作業の機械化を図るため,巻取補助装置の作業性能を明らかにするとともに,実用性を検討する。
[成果の内容・特徴]
巻取は,苗の草丈がロングマット水耕苗移植に適した草丈8~12センチメートルに達したとき(播種後約14日)に行う。
落水は前日に行い,過剰な水分を除去すると巻取作業がしやすくなる。
巻取作業は,スリット等を取り除いたあと,ベッドからはみ出した苗を長さ2mの棒で内側に押し戻し,ローラー(直径12センチメートル,幅27.5センチメートル,重さ10キログラム)で上流から下流に向かって2回鎮圧を行い,倒された葉の先端方向から,硬質塩化ビニール管(UV管:外径114ミリメートル,内径107ミリメートル,長さ275ミリメートル)を芯にして巻取る。
鉄板による巻取は,苗押さえ板(60センチメートル×27.5センチメートル)10枚を苗に載せ,2人組作業で,1人が苗の先端方向(下流)から,苗押さえ板をスライドさせながらもう1人が芯に苗を巻き取る方法である。
巻取補助装置は,この苗押さえ板をスライドさせる部分をゴム製のベルトを回転させることにより機械化したもので,搭載したバッテリーにより自走して,作業者が巻取を行うものである。速度調節も可能で,作業者一人で巻取作業ができる。
巻取補助装置を用いた巻取作業の延べ作業時間は9.1分で,鉄板の場合の36.7分の24.8%と約1月4日に省力化できる。
巻き取ったロール苗の形状,植付本数,移植後の欠株率などの移植精度,苗の損傷もほぼ同等で実用的な性能が認められる。
[成果の活用面・留意点]
中央農業総合研究所総合研究第2チームが開発した試作機を用いた結果である。
試作機はさらに改良が加えられ近日市販化の予定である。
ロングマット水耕苗移植技術による規模拡大と労働軽減
担当:経営技術研究室
[背景・ねらい]
育苗や移植作業の省力化を通して規模拡大やコスト低減を目標とするロングマット水耕苗移植技術普及のため,導入効果を明らかにすることが求められている。そこで,ロングマット水耕苗移植技術導入経営の営農モデルを構築し,シミュレーション等によって規模拡大,コスト低減,軽労化等の効果を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
労働力が2人の場合,土付き苗移植技術の作付け可能面積は979aであるのに対し,ロングマット水耕苗移植技術では1105aまで拡大できる。このため土付き苗移植技術に比べ所得が上回り,60キログラム当たり生産費を低減できる。
ロングマット水耕苗移植によれば田植え時期(4月上旬~5月下旬)の労働力が1人の場合でも土付き苗以上の作付けが可能である。作付け面積は土付き苗の146%と労働力2人での作付け割合以上に拡大でき,土付き苗に比べて所得が上回り,水稲60キログラム当たり生産費を低減できる。
ロングマット水耕苗移植技術の田植え作業におけるエネルギー代謝率に作業時間を乗じた値は,土付き苗移植技術の36%である。このため労働力1人での田植えは土付き苗よりも軽労化が図られる。
ロングマット水耕苗の水稲60キログラム当たり生産費が低減し所得が高まる苗生産回数は,耕地面積8ha程度の小~中規模では2回,8ha以上の大規模では3回である。苗生産2回の場合には単収が有利な時期への作付け比率が高まり,苗生産3回の場合には施設経費を抑えることが可能である。
ロングマット水耕苗移植技術の水稲60キログラム当たり生産費は耕地面積8ha以上で土付き苗よりも低減し,所得は土付き苗の作付け限界となる規模以上で上回る。技術導入は大規模経営で効果が高い。
[成果の活用面・留意点]
秋期作業に労働力,機械能力等の制約がある場合には,田植え時期の労働力減少におけるロングマット水耕苗技術の導入効果(土付き苗に対する作付面積)は小さくなる。
コスト低減には育苗施設(苗生産)の利用向上が必要であるが,定植時期別の収量によって水稲総生産量が低下する可能性もあるため,収益性については留意する。なお,ここでは一時貯蔵による移植時期への対応は想定していない。
ロングマット水耕苗移植・直播を導入した水田複合経営の収益性
担当:経営技術研究室
[背景・ねらい]
稲作の省力化・低コスト化に対する要望は高く,茨城県農業研究所では,ロングマット水耕苗移植技術(以下ロングマット水耕苗),汎用型ディスク駆動式不耕起播種機による不耕起乾田直播技術(以下不耕起乾直),及び打込式代かき同時施肥播種機による湛水土中点播栽培技術(以下湛水点播)について現地実証試験を行ってきた。他方,米の需給バランスを安定させるために生産調整は依然として重要になっている。そこで,水稲省力化技術を導入し,麦・大豆による水田転作を行う営農モデルにおいて最適組み合わせを提示する。
[成果の内容・特徴]
労働時間の軽減されるロングマット水耕苗では,土付き苗に比べて労働時間当たり所得が向上し水稲60キログラム当たり生産費が低減する。一方,作付け面積は土付き苗と同等に止まるため所得が低下する。
湛水点播の場合,労働時間当たり所得の増加,水稲60キログラム当たり生産費の低減はロングマット水耕苗よりも大きい。経営面積が拡大し,所得においても土付き苗を上回ることができる。湛水点播+ロングマット水耕苗では,収穫作業の競合を回避できるため,湛水点播のみに比べて所得が向上する。湛水点播は耕地面積11haから採用され,作付け面積の限界では水稲の70%が湛水点播となる。
不耕起乾直+ロングマット水耕苗は,体系のなかでもっとも所得が高く,また,水稲60キログラム当たり生産費も低い。不耕起乾直は耕地面積11haから採用され,作付け面積の限界では水稲の65%が不耕起乾直となる。
[成果の活用面・留意点]
試験を行った県央に位置する現地は,土壌型からみて各水稲省力化技術が導入可能(茨城県普通作栽培基準)とされる半湿田の黒ボクグライ土である。圃場整備により作業条件は良好であり,麦・大豆での高い転作割当(38%)に対応している。したがってこうした条件以外への成果の適用には留意する。
作付体系は麦・大豆-麦・大豆-水稲-水稲-水稲の5年7作の輪作である。転換田初年目は代かきで整地を行えるロングマット水耕苗,または湛水点播技術で対応する。
水田土壌におけるコシヒカリの基肥窒素診断法
担当:土壌肥料研究室
[背景・ねらい]
水田土壌の窒素肥沃度を簡易に診断し,コシヒカリの施肥に反映させることで高品質米の安定生産を図る技術が求められている。そこで,水田土壌の窒素肥沃度をリン酸緩衝液抽出法で簡易測定し,基肥窒素量を診断する「水田土壌における可給態窒素量の簡易測定によるコシヒカリの基肥窒素量の推定」を平成12年度県主要成果として発表した。この基肥診断に基づいてコシヒカリ栽培を行い,農家慣行の施肥法と生育,収量および食味関連成分等を比較検討した。
[成果の内容・特徴]
基肥窒素診断には,水田土壌をpH7.0リン酸緩衝液で浸とう抽出した窒素量と,各土壌の仮比重を用いる。リン酸緩衝液抽出窒素量に仮比重を乗じた値(X)は,基肥窒素量(Yキログラム/a)との間にY=-2.22X+13.69,X<5.3Y=2.0,X≧5.3の関係式が得られ,簡易に測定できる抽出窒素量から適切なコシヒカリの基肥窒素量が診断できる。
県内3タイプの水田土壌において,上記の基肥診断に基づいてコシヒカリを栽培した結果,施肥診断区の倒伏程度は2以下で栽培できる。施肥診断区の玄米千粒重は,21.5g程度で,細粒グライ土および細粒灰色低地土では慣行施肥区と同等またはそれ以上である。診断施肥区の収量は慣行区に比べ3~17%増収し,安定収量が得られる。また,白米粗蛋白含量は良食味米の目標である6.5%以下の低い水準に制御できる。
[成果の活用面・留意点]
連年水田を対象とし,特に,コシヒカリが倒伏し生育制御を要する水田に活用する。
リン酸緩衝液抽出窒素量の分析は,土壌・作物栄養診断マニュアル(1997)に準じて行う。抽出窒素量は可給態窒素簡易測定器(ふれんど7)を用いて比色定量する。
基肥窒素量の診断は,土壌環境基礎調査(定点調査)をもとに作成した水田土壌の仮比重値を参考にし,これにリン酸緩衝液抽出窒素量を乗じて行う。
有機質肥料および農薬削減によるコシヒカリ栽培
担当:土壌肥料研究室
[背景・ねらい]
近年,安心・安全で付加価値の高い特色ある米づくりが求められている。また,化学肥料や化学合成農薬使用を削減する持続性の高い農業生産方式の導入が進められている。そこで,化学肥料や農薬等の生産資材を削減するため,100%有機質肥料(100%動植物質の有機を混合造粒した粒状肥料)を用い,疎植にしてコシヒカリを栽培し生育・収量および食味に及ぼす影響を明らかにした。また,受光態勢や病害虫に対する抵抗性を高める稲体の珪酸や窒素吸収について化学肥料栽培と比較した。
[成果の内容・特徴]
-有機質肥料の減肥と疎植栽培の効果-
有機質肥料を利用したコシヒカリの無化学肥料栽培では,施肥窒素量を標準(化学肥料)栽培の1月2日に削減し,かつ疎植(平方メートル当たり15本植え)にすれば,収量は10%程度低下するものの,倒伏程度は小さく,白米粗蛋白含量(%)は低く,良食味米生産ができる。
病害虫に対する抵抗性と関連がある珪酸や窒素含有率の比,すなわち珪酸/窒素比は,有機質肥料を減肥し,疎植にすることによって高まる。
-生産資材削減と粗収益-
標準植えを平方メートルあたり15株植えに変えると,種子,培土,育苗箱数を減らすことができる。また,無化学肥料(農薬削減)栽培は,肥料や農薬の使用量が減るので,生産資材費は標準栽培に比べ5,000円程度削減できる。
有機質肥料の減肥と疎植を組み合わせた栽培は,標準栽培に比べ単収が10%程度低下するが,玄米60キログラム当たりの単価を1,300円以上高く販売することで粗収益が上げられる。
[成果の活用面・留意点]
この成果は,細粒グライ土における試験結果である。施肥窒素の削減技術は,窒素肥沃度,保肥力の高い圃場を対象とする。
本試験農薬削減栽培では,種子消毒は温湯消毒とし,苗箱施薬による病害虫防除は実施していない。初期除草剤と空中散布時のみ化学合成農薬を使用した。
平成13年,14年の両年とも,いもち病の発病の少ない条件であった。
ホールクロップサイレージ用イネの収量と窒素吸収量の関係
担当:土壌肥料研究室
[背景・ねらい]
高品質なホールクロップサイレージを生産するためには,倒伏させないことが重要である。このため,多収穫の飼料用稲の窒素吸収特性を解明し,窒素吸収量に見合った窒素施肥法を確立する必要がある。一方,乳用牛や肉用牛の粗飼料として水田から持ち出され,窒素が収奪されるので,地力窒素の維持管理も重要となる。そこで,ホールクロップサイレージ用イネの収量と窒素吸収量の関係を明らかにした。
[成果の内容・特徴]
-収量と窒素吸収量-
ホールクロップサイレージ用イネの乾物収量が1.5~2.0t/10a(現物で3.8~5t)の場合,地上部全体の窒素吸収量は15~20キログラムである。専用品種であるホシアオバやクサホナミは,稈長が105センチメートル以上になると倒伏程度が大きくなる。稈長が105センチメートルを超える飼料イネの乾物収量は1.8t/10a以上で,窒素吸収量は18キログラム程度になる。
-ダイレクトカット収穫方式における窒素収奪量-
ダイレクトカット方式の場合,地際部は水分が高いため,地際から15センチメートルの高さで刈り取る。品種や生育(稈長)によって,乾物当たりの比率に差はあるが,全乾物重に占める地際から15センチメートルまでの比率は概ね15%程度である。したがって,乾物収量1.5~2tの場合,ホールクロップサイレージとして圃場から持ち出され,収奪される窒素量は13~17キログラムになる。このため,圃場から収奪される窒素分を有機物(堆肥)で還元し,水田の地力維持に努める必要がある。
[成果の活用面・留意点]
飼料用イネの収穫後,堆肥の全窒素(%)を勘案し還元する。次作以降,飼料用・主食用イネを安定生産するには,堆肥の還元量と窒素の肥効率を考慮した上で施肥窒素を化学肥料で補う。
土壌環境基礎調査(定点調査)からみた県内水田土壌の実態と対策
担当:土壌肥料研究室
[背景・ねらい]
土壌環境基礎調査(定点調査)は,我が国の農地土壌の性質の変化及びその要因を把握し,必要な対策を確立するため,全国の主要な土壌を代表する約2万点の農地を対象として,昭和54年から平成9年度末まで実施してきた。本県では,農地720地点に定点を設け,詳細な土壌物理性,化学性の分析及び土壌管理に関する農家に対するアンケート調査を実施した。今回は,平成9年度までの調査を基に,本県水田土壌の20年間の変化と水田地力の実態および今後の地力対策について報告する。
[成果の内容・特徴]
定点調査のうち,水田土壌は調査1巡目(1979~83年)に311地点の定点を設けたが,農地の改廃や基盤整備のため4巡目(1994~98年)には251地点まで減った。この20年に,水田では基盤整備及びトラクター,田植機,コンバインなど大型機械が普及し,水田の汎用化などでよりいっそう乾田化が進んでいる。
水田土壌の平均作土深は,県南地域などの低湿地に分布するグライ土壌や泥炭土壌では,20年間に2~3センチメートル浅くなっている。一方,県西地域の鬼怒川や小貝川沿岸などやや高位に分布する灰色低地土壌では,逆に1~2センチメートル深くなっている。
水田土壌の土壌化学性の変化をみると,主要な水田土壌である灰色低地土壌及びグライ土壌では,腐植など地力に関わる全炭素や全窒素が減少している。
水田土壌の可給態りん酸含量は,1巡目では改良基準の10ミリグラム以下の地点が多かったが,4巡目になると10~20ミリグラム以上の地点が多くなり,土壌改良が進んでりん酸の不足している水田が少なくなってきていることが分かる。
地力の目安となる有効態窒素は2~3巡目の調査にかけて一時増加したが,4巡目になるといずれの土壌でも減少に転じている。また,土壌の養分保持力を示すCEC(陽イオン交換容量)の減少傾向も顕著に認められる。
以上の結果から,県内の水田土壌では乾田化の進行により,有機物の分解が進み,地力窒素の消耗による地力の低下が進行している。今後,堆きゅう肥の投入,作土深の確保,地下水位の適切な管理など,水田の総合的な地力維持増進対策が必要である。
[成果の活用面・留意点]
土壌環境基礎調査(定点調査)は,平成10年度から土壌機能モニタリング調査として,調査地点を1月5日に減らして継続実施中である。基盤整備などにより乾田化の進んだ水田では,深耕や堆きゅう肥の投入に努め,地力の維持を図る必要がある。
輪換畑におけるドレンレイヤー工法による浅層暗渠の排水効果
担当:水田利用研究室
[背景・ねらい]
近年,米価は生産過剰により低迷しており,生産調整がさらに強化されてきている。しかし,低湿地帯では排水不良に起因して転作作物の収量,品質が阻害されているのが現状である。そこで,低コストで排水性の高い暗渠排水技術を確立し,輪換畑における畑作物の安定生産を図ろうとした。
[成果の内容・特徴]
ドレンレイヤー工法による浅層暗渠の施工は,従来のトレンチャによる施工法より,省力,低コストである。
降雨後の地下水位は浅層暗渠が従来暗渠より地表面から作土層にかけて早く低下する。この要因は本暗渠が密に施工されていることと,浅層暗渠圃場の水の下方浸透能力が従来暗渠の2倍程度であったことから,浅層暗渠施工により透水性が改善するためと考えられる。
浅層暗渠施工圃場における大豆の収量は,従来暗渠と同等であるが,干ばつ傾向の年次に増収効果がみられる。増収要因は開花期から最大繁茂期にかけて,浅層暗渠施工圃場の地下水位が,従来暗渠より高く経過するため,適度な土壌水分が保持され,稔実莢数の増大に起因するものと思われる。
浅層暗渠施工圃場における小麦の収量の特徴は,暗渠側近部でやや減収する傾向がみられるが,収量は暗渠による差はみられない。
[成果の活用面・留意点]
ドレンレイヤー工法とは,レーザー制御により削耕部分で土を押し広げながら,疎水材と吸水管を同時埋設する工法である。
従来暗渠が田面下60~80センチメートルに1/500勾配の本暗渠を長辺方向へ10m間隔に施工した暗渠であるのに対し,浅層暗渠とは,田面下50センチメートルに無勾配の本暗渠を長辺方向へ5m間隔に施工した暗渠である。
暗渠施工後2.5年間の輪換畑期間のデータである。そのため,水田復元後に再び輪換畑に戻した場合の排水効果については未検討である。
排水路の水位は暗渠排水口からの逆流を防ぐため,常時50センチメートル以下に維持する。
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